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東京高等裁判所 昭和46年(く)128号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は弁護人真室光春名義の抗告状記載のとおりであり、その要旨は、原裁判所は本案被告事件の公判審理進行中に弁護人のした保釈請求を二回に亘り刑訴法八九条四号(罪証隠滅の虞れ)を理由に却下し、証拠調を全部終了した段階において弁護人が重ねて保釈の請求をしたに対し、原決定をもって同法第三号(常習として長期三年以上の懲役又は禁錮にあたる罪を犯したもの)を理由にこれを却下したが、本案事件記録上被告人が常習として賍物罪を犯したと認め得る資料はなく、原決定は不当であるから、これを取消し被告人の保釈許可決定を求めるというにある。

本案被告事件記録によれば、被告人は公訴事実と同一の事実により昭和四六年三月一日勾留、同月一八日起訴され、原裁判所は同年四月一四日第一回、五月一九日第二回、六月九日第三回の各公判期日を開き審理を行い、第三回公判期日においては被告人の司法警察員、検察官に対する各供述調書、被告人質問を経て一応証拠調を終り、検察官、弁護人の各意見陳述が行われたところ、弁護人より被告人の逮捕勾留に関する手続の違法につき立証準備のため公判期日を続行され度い旨の請求があり、原裁判所はこれを容れて第四回公判期日として同年六月三〇日を指定した審理経過が明らかであり、公判審理開始後、各公判期日を終えた毎に弁護人から被告人の保釈請求がなされ、これに対し原裁判所は同年三月二五日、五月二一日及び六月一一日にいずれもこれを却下する決定をし、その前二回は刑訴法八九条四号を理由とし、後の一回は同法条三号を理由としていることが認められる。

被告人に系る前科照会、指紋照会に対する各回答書、被告人の自供によれば被告人には昭和三二年より同四四年の間に傷害、恐喝、窃盗、銃砲刀剣類所持等取締法、火薬類取締法、競馬法、道路交通法各違反等多種類の罪名による前科八犯のあることを認め得るが賍物罪によるものはなく、また記録上、同一の窃盗本犯より賍物を二回に故買した本案事件の外に賍物罪又は同罪質の罪に触れる所為のあることを窺わせる事情も見出せない。本案賍物故買罪を被告人の常習性の発現と認めるにはその資料が乏しく、本件保釈請求を刑訴法八九条三号のみを理由として却下した原決定は失当といわざるを得ない。しかし、第一審公判において一応証拠調を終ったからといって当然罪証隠滅の虞れが消滅したといい得るものではなく、本案事件の公訴事実第二の賍物ダイヤモンド入り指輪の所在が甚だ疑惑を残した状態のまま不明であることを思えば、右の虞れはなお存続していたと認められ、同法条四号を理由に保釈請求を適法に却下し得たと判断される。かつ当裁判所の電話聴取書によれば昭和四六年六月三〇日本案事件につき実刑の判決言渡のあったことが明らかであるから、現段階においては原決定を取消す理由が消滅しており、保釈を許可すべき事由も認められないので、本件抗告はその理由がない。刑訴法四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 関谷六郎 裁判官 寺内冬樹 中島卓児)

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